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中間表現型

近年の精神疾患におけるゲノム研究では、認知機能などを中間表現型として用いるようになってきています。中間表現型とは、疾患と遺伝子の間に位置する表現型であり、疾患と遺伝子の関連の強さと比べて、遺伝子との関連がより強固な表現型であると考えられています。中間表現型とは、①遺伝性がある、②量的に測定可能である、③精神障害の弧発例において精神障害や症状と関連する、④長期にわたり安定である、⑤精神障害の家系内で精神障害を持たないものにおいても発現が認められる、⑥精神障害の家系内では精神障害を持つものでは持たないものより関連が強い、といった条件を満たすものになります。

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統合失調症の中間表現型として、注意・集中力、言語流暢性、実行機能、IQなどの認知機能、脳構造画像、拡散テンソル画像、resting state機能的MRIなどの脳MRI画像、脳波、近赤外分光分析法NIRSを用いて測定した脳賦活化などの神経生理機能、性格傾向などが挙げられます。

​ 金沢医科大学精神疾患研究グループでは、精神疾患に関わる分子遺伝基盤を解明するために、より有用な中間表現型の同定を試みて、その中間表現型を用いて、精神疾患に関わる遺伝子の同定を試みます。

身体活動量

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Ohi, et al., Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci. 2018

統合失調症患者では、身体活動量の低下による心血管疾患などの罹患率や死亡率の上昇が認められます。しかし、社会機能や生活の質(QoL)といったどのようなメンタルヘルス因子が身体活動量の低下に関連しているかは知られていません。本研究では、統合失調症患者および健常対象者に対して、国際標準化身体活動質問表International Physical Activity Questionnaire (IPAQ)、社会機能評価尺度Social Functioning Scale (SFS)、統合失調症患者におけるQoL評価尺度であるSchizophrenia Quality of Life Scale (SQLS)を用いて身体活動量、社会機能、QoLを評価しました。また、統合失調症患者および健常対象者間でIPAQにより評価した身体活動量強度 (重度、中等度、軽度)のメタ解析を行いました。さらに、統合失調症患者および健常対象者において社会機能、QoLが各強度の身体活動量に及ぼす影響を調べました。メタ解析により、患者は健常者に比べて全身体活動量、特に重度の身体活動量が低いことを示しました。患者健常者間でのばらつきなく、全身体活動量の低下は、全社会機能の低下、引きこもり傾向および娯楽活動の低下と相関していました。一方、統合失調症患者のみにおいて、全身体活動量の低下は、自立実行、就労、心理社会関係、動機/活力の低下と相関していました。同様の結果が、重度の身体活動量で得られたのに対して、中等度や軽度の身体活動量では得られませんでした。本研究の結果は、統合失調症患者における重度の身体活動量の低下が、統合失調症に特異的な社会機能およびQoLを介して生じることを示唆しています。 

喫煙

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統合失調症患者は一般集団と比較して喫煙率および喫煙本数が高いことが世界的に知られています。しかし、日本人統合失調症患者における喫煙率および喫煙本数は、報告間にバラつきを認め、さらに近年、一般集団における喫煙率は徐々に減少してきています。本研究では、本邦における約25年間にわたる12個の研究結果を用いた日本人統合失調症患者の喫煙率のメタ解析を行いました。メタ解析により、海外の統合失調症患者の喫煙率に比べると低いものの、本研究結果より日本人統合失調症患者においても一般集団や健常者と比べ約2倍喫煙率が高いことを示しました。

Ohi, et al., Int J Neuropsychopharmacol 2018

前頭部血流

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統合失調症、うつ病、双極性障害といった主要な精神疾患では、第2親等以内に精神疾患の家族歴を有する非罹患者は一般人に比べ精神疾患に罹患する率が2-10倍高くなる。精神疾患において精神疾患の家族歴は、発症の重要なリスク因子であることを示している。また、家族歴を有する患者は家族歴を有しない患者に比べ、症状の重症化やリスクとなる遺伝子を多く保持していることが知られている。言語流暢性課題中の前頭葉機能の低下はこれらの精神疾患において共通して認められる障害であり、同様に66-75%の高い遺伝率を示すことから、疾患と遺伝子間の橋渡しをする中間表現型の一つであると考えられている。近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)は脳活動を高い時間分解能で非侵襲的かつ低コストで計測でき、本邦が中心となり世界に発信している検査法である。本研究では、NIRSを用いて、統合失調症、うつ病、双極性障害といった主要な精神疾患を対象に、家族集積性の有無が言語流暢性課題中の前頭葉血流に及ぼす影響を検討し、家族歴を有する患者(特に統合失調症患者)は家族歴を有しない患者に比べ言語流暢性課題中の前頭葉血流が低下していることを見出した。

Ohi, et al., Sci Rep 2017

上側頭回体積

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統合失調症では脳の上側頭回の体積減少が繰り返し報告されています。しかし、そのような体積減少が、上側頭回の皮質厚の低下によるものなのか、皮質表面積の低下によるものなのか、皮質折りたたみ構造の違いによるものなのかはよく分かっていませんでした。上側頭回はFreeSurferを用いて解剖学的に5つの部位に分けることができます。

 本研究では、統合失調症患者と健常対象者の頭部3T-MRI画像を用いて、上側頭回における5つの部位の構造変化を検討しました。これまでの報告のように、統合失調症患者では、上側頭回の体積減少が認められました。上側頭回の5つの解剖学的部位のうち、上側頭回外側面において統合失調症患者では体積が減少していることが分かりました。また、この体積減少が、皮質厚と皮質表面積の低下によるものであることが分かりました。これらの結果は、統合失調症における上側頭回の体積減少が、主に上側頭回外側面の体積減少に起因するものであることを示唆しています。

Ohi, et al., Euro Psychiatry 2016

性格傾向

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パーソナリティー傾向は統合失調症の症状、認知機能および社会機能に影響を与えるため病態に関わる重要な因子のひとつです。これまでに統合失調症患者は健常者と比較して特徴的なパーソナリティー傾向を示すことが報告されています。NEO Five-Factor Inventory (NEO-FFI)はNeuroticism (N), Extraversion (E), Openness (O), Agreeableness (A), Conscientiousness (C)といった5つのパーソナリティー傾向を評価することができます。本研究では、これまでの統合失調症におけるパーソナリティー傾向のメタアナリシスを行いました。メタアナリシスでは、統合失調症患者は健常者と比べて有意にNが高く、E, O, A, Cが低いことを見出しました。これらの差異は各研究における年齢や性別の違いにより影響を受けていないことが分かりました。これらの結果より統合失調症患者は健常者と比較して異なるパーソナリティープロファイルを持つことが示唆されました。

Ohi, et al., Psychiatry Res 2016

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