top of page

​症例報告

統合失調症、悪性カタトニア、解離性障害、22q11.2欠失症候群、神経疾患などの症例を報告しています。

悪性カタトニア

悪性カタトニアは、緊張病症候群、高熱、自律神経症状および精神状態の変化からなる疾患です。抗精神病薬によって引き起こされる神経遮断薬悪性症候群は、悪性カタトニアの亜型とみなされ、ベンゾジアゼピン系薬剤は、悪性カタトニア症状の迅速な改善をもたらす安全かつ有効な治療法です。本報告では、当初は神経遮断薬悪性症候群と診断されダントロレンが開始されたが無効であり、臨床経過より統合失調症に伴う悪性カタトニアと診断してベンゾジアゼピン系薬剤が奏功した症例を報告しました。症例は、50代男性の統合失調症患者で、入院3日前に内服薬を全て自己中断した後、興奮、独語、筋強剛および不眠のため精神科病院に入院しました。患者は高熱、頻脈、高血圧、過度の発汗および血清クレアチンホスホキナーゼ(CPK)濃度の上昇などを呈したため、神経遮断薬悪性症候群が疑われました。ダントロレンで7日間治療され、血清CPKは正常範囲内となりましたが、意識障害、高熱、自律神経症状など身体状態の改善を認めなかったため、当院に移送され、身体状態の精査を行いました。興奮や幻聴の治療のためにハロペリドールの静脈内点滴を開始したところ、血清CPKは正常範囲内にとどまっていたにも関らず、高熱、自律神経症状は改善せず、緊張病および精神病症状が増悪しました。臨床経過より統合失調症に伴う悪性カタトニアと診断して、治療薬をベンゾジアゼピン系薬剤に変更したところ、諸症状は急速に改善しました。

 カタトニア、神経遮断薬悪性症候群、悪性カタトニアは共通の病態をもち、疾患として同一のスペクトラムにある可能性があり、ベンゾジアゼピン系薬剤が有用であり得る点も共通しています。また、以前の精神障害の診断基準(DSM)-IVではカタトニアは統合失調症のサブタイプとして記載されていましたが、新しいDSM-5に基づくとカタトニアは統合失調症のサブタイプではなく、様々な精神障害に併発し得る症候群になります。カタトニアと統合失調症の治療薬は異なり、抗精神病薬はカタトニア症状を緩和するのに有用ではなく、逆に神経遮断薬悪性症候群を誘発し得る可能性がありますが、ベンゾジアゼピン系薬剤は悪性カタトニアおよび神経遮断薬悪性症候群双方の治療に有効であると考えられます。

Ohi et al., Medicine 2017

解離性障害

転換性障害の背景にある神経学的基盤についてはほとんど知られていません。本症例報告では、転換性障害の運動麻痺に関連するメカニズムを解明するために、機能的核磁気共鳴画像(fMRI)を用いて検討を行いました。運動麻痺を伴う転換性障害患者において、fMRIを用いて両側足関節の底屈・背屈により誘発された脳賦活領域を運動麻痺の改善前後で比較しました。結果は、運動麻痺の残存時では小脳後葉における賦活を認められましたが、改善時は、消失していました。小脳は随意運動と密接に関連する領域であることから、小脳における相補的な機能異常が運動麻痺を伴う転換性障害の神経学的基盤と関連している可能性が示唆されました。

Shimada et al., Neuropsychopharmacology Rep 2018

22q11.2欠失症候群

22q11.2欠失症候群は、22番染色体長腕11.2(22q.11.2)領域の欠失により引き起こされます。22q11.2欠失症候群患者の3分の1の割合で統合失調症様症状を呈します。一般的に、統合失調症患者における22q11.2欠失症候群の罹病率は1-2%になります。22q11.2欠失は、統合失調症の主なリスク遺伝因子として知られています。しかし、22q11.2欠失を有する統合失調症患者と有しない統合失調症患者間の臨床的な違いは分かっていません。そのため、臨床症状に基づいて統合失調症患者から22q11.2欠失を診断することは難しいかもしれません。これまでに日本人における22q11.2欠失を伴う統合失調症患者の報告は多くありません。本症例では、30年間統合失調症として加療されていたが、遺伝子検査の結果22q11.2欠失を伴うことが判明した48歳日本人女性を報告しました。頭蓋顔面奇形、低カルシウム血症、脳画像、焦燥感といった臨床所見に基づいて、22q11.2欠失を疑い、fluorescence in situ hybridization(FISH)法にて診断しました。統合失調症様症状を伴う日本人22q11.2欠失症候群患者における共通する臨床症状を見出すために、既報の日本人症例を含む3例間で臨床症状を比較しました。共通する症状は、先天性の心血管奇形の欠如と、軽度知的障害、焦燥感、低カルシウム血症の存在であった。22q11.2欠失を伴う統合失調症患者における低カルシウム血症や焦燥感は22q11.2欠失によるものかもしれない。

Ohi et al., Ann Gen Psychiatry 2013

bottom of page